日本では、農耕民族として婚礼式は農閑期にという発想でしょうか、古来より11月または12月が結婚によい時期とされてきました。
また、「昏(たそがれ)時に礼を行う故、婚礼と言う」とあるように、平安時代には夕方に式が行われることが常であったようです。
当時の婚礼は婿取りの方式で、男が女の家に出向いて婚姻し、共に住んで一定期間が過ぎてから男の家に迎えるものでした。
武家社会になると女を男の家に迎えて嫁とする嫁迎えの式となり、婿方の家で行うようになりました。
嫁女はその家に祝い納めると言う意味で、どんな陋屋(ろうおく・粗末な家)でも、その家で自分に応じた式を挙げるものでした。
当時は儀式と儀式の後の供応の宴に時間を要することもあって、正午に式を挙げることが多くなりました。
婚姻は妻を娶とり子供が生まれ、跡継ぎが出来ること意味し、跡継ぎの冠音の「あ」の字を省いたのが「処継ぎ」であると言われています。
婚姻を結ぶ役として仲人(媒酌人)が必要となりますが、古事記には「吾と汝と是の御柱を行き迴り逢ひて御所の麻具波比せむ」とあり、「はし渡し」として伊邪那岐・伊邪那美の二尊の他に人がいなかったので、柱を仲立ちとしたとしています。
婚嫁を双方に熟談させる役として、婿方、嫁方から本人をよく知るものを、媒酌人としてそれぞれ立て誠意を尽くして婚姻の申し受けを行い、黄道吉日(こうどうきちにち)を選んで結納を贈ることとなります。
結納には媒酌人とは別に使者を立てることが本来で、今日では媒酌人に使い走りをさせることが多くみられますが、礼を失したことです。
結納は戸主に贈ることが本来の意味でしたが、江戸時代になると嫁に贈ることとなり、略しては嫁だけに贈るようになりました。
式当日になると正午に婿方の家で婚礼の式を挙げるので、嫁女は朝のうちに身支度を整え神仏に拝礼をし、父母等への礼や挨拶を行い、別れの杯が行われます。
その後、婿方の案内に従って婿方に赴きますが、昔は輿に乗って嫁入りしたことから、輿入(こしいれ)と呼ばれました。
今では和装の婚礼式というと角隠しが一般的になっていますが、これは輿に乗った時の道中用で、言わばスカ−フの様なものであり、家の中でまで身につけるのはおかしなものなのです。
婚礼は二人の結びであることから、神様の前は寧ろ遠慮して、「いますがごとく」の心を持って厳粛に執り行うものです。
人前結婚式であるとか音楽結婚式とかがいわれていますが、本質的にはこれらは結婚式ではなく披露宴の形態であるといえます。
また、神前結婚式は明治33年に大正天皇の御慶事を記念して、日比谷大神宮においてキリスト教の婚礼の思想を受け入れて行われたもので、その後披露宴を行うのに不便であるなどの理由により、ホテル等に神様をお祭りして披露宴のための結婚式が多くなっているように思われます。
婚礼式には「陰陽合杯の式」として「陰の式」と「陽の式」があります。
陰の式は神に捧げる正式であり、飾りは清楚にして、衣服はもちろん、器に至るまで白を用います。
また陽の式は人としての式であり、色直しの式であることから衣服は紅色を用い、器等もすべて色物を用います。
神酒を入れた瓶子を置き、瓶子より神酒を提子(ひさげ)に移し、さらに銚子に受けて、この銚子にて酌をする、いわゆる三三九度の杯を交わしますが、これを合杯(あいさかずき)の式といいいます。
この式場には本来、式を行うもの以外は誰も入ることができません。式は熨斗三方披露から始まり、瓶子移しを行いますが、熨斗三方披露・瓶子移し共に、その役が済めば式場を退きます。通いの酌の者も、心身ともに清め、謹んで酌を行います。
婚礼の「陰の式」というのは、杯事を人の見る前で行うものでないという意味が含まれているのです。
また、陰の式では酌人・配膳共に動作をする場合には全て左に回ります。杯事は嫁から始め、本膳では嫁に三献酌をして後、婿に三献酌をします。二の膳では、逆に婿に三献酌をして後、嫁に三献酌をします。三の膳では嫁から三献酌をして後、婿に三献酌をします。陽の式では、動作は全て右回りとなり、杯事も婿方から始まりますが、左回り、右回り、女性から盃ごとを行うことも「古事記」の柱を巡った、また言葉を発した故実から来ているのです。
いずれの式においても三度ずつの九度杯を差すことから「三三九度の杯」と一般に称されています。しかし酒を注ぐのに三度に注ぐというのは、鼠尾・馬尾・鼠尾と言って、始め細く、中太く、また次第に細くと言うように、酒を酌するにあたって粗相の無いように注ぐことを教えたものであって、今日一般に行われている二回は形式で、三度目に注ぐということは本来の意味を知らない真似ごとにすぎません。
嫁・婿それぞれの二献目が終わったときに、加柄の提子より神酒が長柄の銚子に加えられ、陰の式では本酌、次酌共に左々について一回りしますが、これを結びといいいます。陽の式では右々について一回りします。
この 結婚式にしようされる加柄の堤子、長柄の銚子に雄蝶・雌蝶が飾られているのは、美しい蝶の舞う姿ではなく、サナギが蛾となって雌雄交錯して行く中にやがて繭を作り、この新しい家庭は絹を生産するとともに、子孫を育んで行くという、生産と種族保存を表しているのです。そのために婚礼式では雌雄が交錯しつつ杯を交わすのです。